賤しい人に関して



『(口汚く罵り)人を悩まし、欲深く(返礼することをも知らず)、悪行を行うことを意欲し、(利己的で)物惜しみをし、
 偽善者であざむいて(徳がないのに敬われようと欲し)、自らと他者に恥じ入る(慚愧)心がない人、
 このような者を賤しい人であると知るがよい。

 目覚めた人(仏陀)を誹謗し、あるいは出家・在家のその弟子(仏弟子)を誹謗する人、
 このような者を賤しい人であると知るがよい。

 実際は尊敬されるべき人(聖者)ではないのに、尊敬されるべき人(聖者)であると自称し、
 梵天を含む全世界にとっての盗賊である人、
 このような者こそ実に最下層の賤しい人であると知るがよい』





  賤しい人

  わたくしが聞いたところによると、あるとき師(仏陀)はサーヴァッティーのジェータ林、〈孤独な人々に食を給する長者の園〉におられた。

 そのとき師は朝のうちに内衣を着け、鉢と上衣を携えて、托鉢のためにサーヴァッティーに入った。

 そのとき、火に事えるバラモン・バーラドヴァージャの住居には、聖火がともされ、供物がそなえられていた。

 師はサーヴァッティー市の中を托鉢して、かれの住居に近づいた。

 火に事えるバラモン・バーラドヴァージャは師が遠くから来るのを見た。

そこで、師に言った、
「髪を剃った者よ。そこで止まれ。偽の道の人よ。そこで止まれ。賤しい者〔どの階級にも属さない最も賤しい人〕よ。そこで止まれ」と。

そのように語りかけられたので、師は火に仕えるバラモン・バーラドヴァージャに言った、
「バラモンよ。あなたは賤しい人とは何かを知っているのですか。また賤しい人たらしめる条件を知っているのですか」

「ゴータマさん。わたしは人を賤しい人とする条件を知っていないのです。
 どうか、わたしが賤しい人を賤しい人とさせる条件を知りえるように、ゴータマさんはわたしにその定めを説いてください」

「バラモンよ、ではお聞きなさい。よく注意なさい。わたくしは説きましょう」

「どうぞ、お説きください」と、火に事えるバラモン・バーラドヴァージャは師に答えた。


師は説いて言った、

「怒りやすくて、恨みを懐き、邪悪にして、見せかけであざむき、誤った見解を奉じ、たくらみのある人、
 このような者を賤しい人であると知るがよい。

 一度生まれるもの(胎生)でも、二度生まれるもの(卵生)でも、この世で生きものを害し、生きものに対するあわれみのない人、 このような者を賤しい人であると知るがよい。

 村や町を破壊し、包囲し、圧制者として一般に知られている人、
 このような者を賤しい人であると知るがよい。

 村にあっても、林にあっても、他人の所有物をば、与えられないのに盗み心をもって取る人、
 このような者を賤しい人であると知るがよい。

 実際には負債があるのに、返済するように督促されると、『あなたからの負債はない』といって言い逃れる人、
 このような者を賤しい人であると知るがよい。

 実に僅かな物が欲しくて路行く人を殺害して、僅かの物を奪い取る人、
 このような者を賤しい人であると知るがよい。

 証人として尋ねられたときに、自分のために、他人のために、また財のために、偽りを語る人、
 このような者を賤しい人であると知るがよい。

 暴力を用い、或いは相愛して、親族または友人の妻と交わる人、
 このような者を賤しい人であると知るがよい。

 自らが財豊かであるのに、年老いて衰えた母や父を養わない人、
 このような者を賤しい人であると知るがよい。

 母・父・兄弟・姉妹あるいは義母を打ち、または言葉で罵る人、
 このような者を賤しい人であると知るがよい。

 相手の利益となることを問われたのに、不利益を教え、隠蔽して事を語る人、
 このような者を賤しい人であると知るがよい。

 悪事を行っておきながら『誰も私のしたことを知らないように』と望み、隠蔽して事をする人、
 このような者を賤しい人であると知るがよい。

 他人の家に行っては美食をもてなされながら、客として来た時には、返礼としてもてなさない人、
 このような者を賤しい人であると知るがよい。

 バラモンまたは道の人〈沙門〉、または他の〈もの乞う人〉を嘘をついて騙す人、
 このような者を賤しい人であると知るがよい。

 食事のときが来たのに、バラモンまたは〈道の人〉を言葉で罵り、食〈布施〉を与えない人、
 このような者を賤しい人であると知るがよい。

 この世で迷妄に覆われ、僅かの物が欲しくて、事実でないことを語る人、
 このような者を賤しい人であると知るがよい。

 自分をほめたたえ、他人を軽蔑し、自らの慢心のために卑しくなった人、
 このような者を賤しい人であると知るがよい。

 (口汚く罵り)人を悩まし、欲深く(返礼することをも知らず)、悪行を行うことを意欲し、(利己的で)物惜しみをし、偽善者であざむいて(徳がないのに敬われようと欲し)、自らと他者に恥じ入る(慚愧)心がない人、
 このような者を賤しい人であると知るがよい。

 目覚めた人(仏陀)を誹謗し、あるいは出家・在家のその弟子(仏弟子)を誹謗する人、
 このような者を賤しい人であると知るがよい。

 実際は尊敬されるべき人(聖者)ではないのに、尊敬されるべき人(聖者)であると自称し、梵天を含む全世界にとっての盗賊である人、
 このような者こそ実に最下層の賤しい人であると知るがよい。

 わたくしがそなたたちに説き示したこれらの人々は、実に賤しい人と呼ばれる。

 生まれによって、賤しい人となるのではない。

 生まれによってバラモンとなるのではない。

 行為によって賤しい人ともなり、行為によってバラモンともなる。


 わたくしは次にこの実例を示すが、これによってわが説示を知るがよい。

 チャンダーラ族の最下層のチャンダーラ・カーストの子で犬殺し〈犬を調理して食べるような者〉のマータンガという人は世に知られて名の高い人であった。

 かれマータンガは、最下層のチャンダーラ・カーストの人であったが、(修行によって真のバラモンであるという)まことに得がたい最上の名誉を得て、多くの王族やバラモンたちはかれのところにきて奉仕した。

 かれは神々の道、塵汚れを離れた大道を登って、欲情を離れて、ブラフマ神(梵天)の世界に赴いた。(賤しい)生まれも、かれがブラフマ神の世界に生まれることを妨げなかった。

 ヴェーダ読誦者の家に生まれ、ヴェーダの文句に親しむバラモンたちも、しばしば悪い行為を行っているのが見られる。

そうすれば、現世においては非難せられ、来世においては悪いところに生まれる。

 (身分の高い)生まれも、かれらが悪いところに生まれ、また、非難されるのを防ぐことはできない。

 生まれによって賤しい人となるのではない。

 生まれによってバラモンとなるのでもない。

 行為によって賤しい人ともなり、行為によってバラモンともなる」

スッタニパータ





















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