更訂 28.12.10
護呪による守護ついて 『護呪は、ある者を守護し、ある者を守護しません。 大王よ、三つの理由によりて、護呪は、(ある者を)守護しません。 すなわち、(悪)業から生じたさわりにより、煩悩から生じたさわりにより、不信によりてです。 大王よ、生けるものどもをよく守護するところの護呪は、(彼ら)自身のなした(悪の)行為によりて、守護(の力)を失うものです。』 護呪(パリッタ)の効果 「尊者ナーガセーナよ、尊き師は、次の(の詩句)を説かれました、 『虚空においても、海中においても、山々の谷間へはいっても、そこにとどまって、死魔のわなからのがれる、そのような地点は、世界のうちにはない』と。 しかしながら、また尊き師は、護呪を説示されました。 すなわち、ラタナ・スッタ(宝経)、カンダ・パリッタ(蘊護呪)、モーラ・パリッタ(孔雀護呪)、ダジャッガ・パリッタ(幢首護呪)、アーターナーティヤ・パリッタ(阿吽曩胝護呪)、アングリマーラ・パリッタ(鴦掘魔護呪)です。 「尊者ナーガセーナよ、もしも、人が虚空に行くも、海中に行くも、高楼・茅屋・洞窟・山穴・穴・洞穴・谷間・山中に行っても、死魔の罠から逃れられないならば、しからば、護呪を唱えることはあやまりです。 もしも、護呪を唱えることによりて、死魔の罠からのがれられるものならば、虚空においても、海中においても、高楼・茅屋・洞窟・山穴・穴・洞穴・山中に行っても、死魔のわなから(のがれられる地点は、世界のうちにはない)というその言葉もあやまりです。 これもまた両刀論法の問いであって、結節よりもさらに(かたく)結ばれています。 これは、あなたが解明すべきものであります」 「大王よ、尊き師は、まさに次(の詩句)を説かれました、 『虚空においても、海中においても、山々の谷間にはいっても、そこにとどまって、死魔のわなからのがれられる、そのような地点は、世界のうちにはない』 しかしながら、また尊き師は、護呪を説示されました。 けれども、それ(護呪の説示)は、寿命にまだ残りがあり、春秋に富み、(悪)業から生じたさわりのない者にたいするものです。 大王よ、寿命のつきた者を、生きながらえさせる儀式、あるいは人為的方法は存在しません。 大王よ、たとえば、枯死し、乾き、乾燥し、樹液なく、生命力を失った樹木に、千杯の桶の水をそそいでも、生き生きとならず、また、芽をふき若葉を出すことはないでありましょう。 大王よ、それと同様に、医薬や護呪の勤行によりて、寿命のつきた者を生きながらえさせる儀式、あるいは人為的方法は存在しません。 大王よ、地上に存在するあらゆる薬草・医薬も・寿命のつきた者には役立ちません。 大王よ、護呪は、寿命にまだ残りがあり、春秋に富み、(悪)業から生じたさわりのない者を守り、保護します。 尊き師は、そのような人のために、護呪を説示しました。 大王よ、たとえば、農夫は、穀物を成熟し、穀粒と茎が枯死したとき、水(田)にはいることを止めるでしょう。 しかしながら、穀粒が未熟で、雲のごとき(暗黒色)をなし、若さにあふれたものは、水を増入することによりて生長します。 大王よ、それと同様に、寿命のつきた者には、医薬や護呪を用いることはやめられ、しりぞけられるのです。 しかしながら、寿命にまだ残りがあり、春秋に富むあらゆる人々のために、護呪や医薬の必要性が力説され、その人々は、護呪や医薬(を使うこと)によりて利益をうるのです」 「尊者ナーガセーナよ、もしも、寿命のつきた者が死に、寿命にまだ残りのある者が存命するならば、しからば、護呪や医薬は無益のものとなるでしょう」 「大王よ、それでは、あなたはいかなる病気でも、医薬によりて快復したのを見たことがありますか」 「尊者よ、そうです。幾百(の病気が医薬によりて快復した実例)を見ました」 「大王よ、しからば、「護呪や医薬を用いることは無益である」というその言葉は、あやまりとなるでしょう」 「尊者ナーガセーナよ、医師の処置にしたがって、(患者が)医薬を飲み、塗り、その処置によりて病気が快復したのを私は見ました」 「大王よ、また、護呪を唱える人々の音声が聞かれ、その舌は乾き、心臓はかすかに動き、喉は嗄れる。 その護呪を唱えることによりて、すべての病気は鎮まり、すべての災難は離散します。 大王よ、また、かつてあなたは、(毒)蛇に噛まれた人はだれでも、呪文によりて毒を除き、(あるいは解毒剤で毒を)しみ出させて、上下に吸い出しつつあるのを見たことがありますか」 「尊者よ、そうです。それは、今日でも、世の中で行われています。」 「大王よ、しからば、『護呪や医薬を用いることは無益である』というその言葉はあやまりです。 大王よ、なぜならば、護呪が、或る人にたいして唱えられたとき、(毒)蛇はかれを噛もうと欲しても、噛まず、開いた口を閉じます。 盗賊どもが振りあげた棒も役にたたず、(毒)蛇はかれを噛もうと欲しても、噛まず、開いた口を閉じます。 盗賊どもが振りあげた棒も役にたたず、彼ら(盗賊)は棒を放棄して、(かれを)親切にあつかいます。 暴れる象も、(かれに)出会うと、静止します。 燃え上がる大きな火のかたまりも、かれに近づくと、消滅します。 (かれが)食べたハラーハラ毒も変じて、アガダ薬となり、あるいは、食物となります。 殺害者が殺そうと欲して、(かれに)近づくと、(その男は)変じて、奴隷のごとくになります。 (かれが)落ちこんだわなも、(かれを)捕えません。 大王よ、さらに、かつてあなたは、護呪をうけた孔雀にたいしては七百年間、猟師がわなに誘うことができなかったが、しかしながら、護呪をうけなかった場合、その日ただちに、わなに誘うことができたということを聞いたことがありますか」 「尊者よ、そうです。聞きました。その話は、神々や人々の世界で有名となっています」 「大王よ、しからば「護呪や医薬は無益である」というその言葉は、あやまりとなります。 大王よ、また、かつてあなたは、次のことを聞いたことがありますか、 『ダーナヴァ(鬼神の名)は、かれの妻を守護しようとして箱のなかに入れ、それを呑んで、胃のなかに入れて大切にしました。 ときに、一人の魔法使いが、かのダーナヴァの口からはいって、彼女と娯しみました。 かのダーナヴァが(そのことを)知ったとき、箱を吐きだして、(それを)開きました。 箱が開かれるやいなや、魔法使いは(逃げようと)欲する所へ逃げ去りました』と」 「尊者よ、そうです。聞きました。その話もまた、神々や人々の世界で有名となっています」 「大王よ、その魔法使いは、護呪の力によりて捕縛をのがれたのではありませんか」 「尊者よ、そうです」 「大王よ、しからば、護呪の力は存在します。 大王よ、かつて、あなたは『他の魔法使いがベナレスの王の宮殿で、大妃と不義を犯し、捕らえられたけれども、一瞬にして、呪文の力によりて見えなくなった』ということを聞いたことがありますか」 「尊者よ、そうです。聞きました」 「大王よ、その魔法使いは、護呪の力によりて捕縛をのがれたのではありませんか」 「尊者よ、そうです」 「大王よ、しからば、護呪の力は存在します。」 「尊者ナーガセーナよ、護呪は、すべての人をも守護しますか」 「大王よ、ある者を守護し、ある者は守護しません」 「尊者ナーガセーナよ、しからば、護呪は、必ずしも役立つものではありませんね」 「大王よ、食物は、すべての人にたいして(その)生命を守護しますか」 「尊者よ、ある者を守護し、ある者は守護しません」 「なぜだろうか」 「尊者よ、ある者が同じ食物を食べ過ぎて、コレラにかかって死ぬからです」 「大王よ、しからば、食物はすべての人々にたいして(その)生命を守護しませんね」 「尊者ナーガセーナよ、食物は、二つの理由によりて、生命を奪います。 あるいは過食によりて、あるいは消化力の微弱によりてです。 尊者ナーガセーナよ、寿命を与える食物も、悪用することによりて、生命を奪うからです」 「大王よ、それと同様に、護呪は、ある者を守護し、ある者を守護しません。 大王よ、三つの理由によりて、護呪は、(ある者を)守護しません。 すなわち、(悪)業から生じたさわりにより、煩悩から生じたさわりにより、不信によりてです。 大王よ、生けるものどもをよく守護するところの護呪は、(彼ら)自身のなした(悪の)行為によりて、守護(の力)を失うものです。 大王よ、たとえば、母が(彼女の)胎に宿った子供を、慈愛をもって保育し、注意して出生させます。 (子供が)生まれたあとは、不浄物・垢・鼻水をとりのぞき、最上最勝の高価な香料を塗ります。 他の(子供たち)がその子供を罵ったり、あるいは打ったならば、(母親は)興奮して彼らをつかまえ、夫のところへ連れて行きます。 しかしながら、もしも、その子供がいたずらで不規則ならば、そこで、彼女はかれを叱ります。 大王よ、(とはいえ)その母親は、かれを引ったて引きずって、夫のところへ連れて行くでしょうか」 「尊者よ、そうではありません」 「大王よ、なぜであろうか」 「尊者よ、(わが子)自身の犯した罪だからです」 「大王よ、それと同様に、生けるものどもを守護するところの護呪も、(彼ら)自身が犯した罪のために、(彼らを守護するという)実を結ばないのです」 「もっともです。尊者ナーガセーナよ、問いはよく解決されました。 密林は明るく切り開かれ、闇黒は光明となり、(あやまれる)見解の網はときほどかれました。 学派の指導者中の最勝者たるあなたに遇って」 ミリンダ王の問 |