更訂 H29.10.18



  邪淫を行わないことについて



 現在の世間の思想では、不倫という行いに関する考え方が、道徳の教えから遠くなってきているところがあり、

 不倫という行いを美化して見せる、映像なり音楽なりも見聞きされることがある。

 国の道徳のあり方、または、(他国の文化や、海外の映画等から受ける、思想・感性に生じる影響で言えば、)
 世界の道徳のあり方の問題でもあるだろう。



 この世界の世間では一般とされるような思想の内に、八聖道に到ることのできない思想を多く見聞きする。

 多くの人が抱くからその思想や考え方が、道徳、または安らぎに到る理法ということなのではない。


 人の道(道徳)、安らぎに到る理法は、真に安らぎに到ることができる教えに説かれている。





  イシダーシー尼

 地上最大の、そして(パータリーと呼ぶ)花の名をつけた都城、パータリプッタにおいて、釈迦族の家に生れた二人の有徳の尼僧がいた。

 そのなかの一人をイシダーシー、もう一人をボーディーと呼び、かれらは、戒行を具え、禅定を楽しみ、多聞にして学識があり、煩悩を払い除いていた。

 かれらは乞食に出かけて帰り、食事をとりおわって、鉢を洗い、人気のないところに安坐して、つぎのことを語り合った。

(ボーディー尼)
「法の姉イシダーシーよ、あなたは眉目うるわしく、年もまだふけていない。
 あなたは、いかなるわざわいを認めて、出離に心を傾けたのですか」

 このように、(出離の生活に入って)淋しい場所で専念しているかのイシダーシーは、説法に巧みであったが、つぎの言葉を語った、

(イシダーシー尼)
「聞きなさい、ボーディー尼よ、私が出家した次第を。

 すぐれた都ウッジェーニーにおいて、私の父は、徳行の篤い豪商でした。
 私は、その一人娘で、可愛がられ、喜ばれ、慈しみをうけました。

 ときに、サーケータに住む名門の人から、(遣わされた)仲人がやってきました。
(名門の人とは)多くの財宝ある豪商で、父は、私をその嫁として与えました。

 夕と朝には、姑と舅に挨拶のために近づき、教えられたとおりに、頭を(彼らの)足につけて敬礼しました。

 私の夫の姉妹や兄弟や近親のうち、だれか一人を(ちらりと)見ただけでも、私は、畏れはばかって、座をゆずりました。

 食物、飲物、かたい食物、それにそこに貯えられているものを、喜んで持ってきて、そうして、その人その人に適するものを与えました。

 時間に遅れることなく起きて、(夫の)住居に行き、入口で手足を洗い、合掌して夫のそばに近づきました。

 櫛と顔料と眼薬と鏡を持っていき、婢女のように、みずから夫を、装飾しました。

 私は、自分で御飯を炊き、自分で食器を洗いました。あたかも、母が一人子にたいしてなすように、私は、夫に仕えました。

 このように、貞淑な態度で、夫に愛情をいだき、高ぶらず、早起きで、怠けず、婦徳がそなわっていたのに、夫は私を憎みました。

彼〔夫〕は、(彼の)母と父とに告げていいました、
「許してください。わたくしは出て行きたいのです。わたくしはイシダーシーと同じ家の中で一緒に住みたくないのです」

「息子よ、そんなことを言いなさるな。イシダーシーは賢くて、はきはきしている。早起きで、怠けたりしません。
 息子よ、何がお前の気にいらないのです」

「彼女は何もわたくしを害ったりしません。
 しかし、わたくしはイシダーシーと共に住みたくないのです。
 ただ嫌いな女はわたくしには用がないのです。
 許してください。わたくしは出て行きたいのです」

彼の言葉を聞いて姑と舅とはわたくしに尋ねました、
「お前はどんなことをしでかしたのだい。打ち明けてありのままに言いなさい」

「わたくしは何も悪いことをしませんでした。(夫を)害なったこともありませんし、(夫の欠点を)数えたこともありません。
 夫がわたくしを憎んで発するような悪い言葉を、どうしてわたくしが口にすることができましょうか」

憂いまどえる彼ら(両親)は、その子息の気持ちにしたがって、苦しみに打ちひしがれながら、わたくしを、(わたくしの)父の家につれもどして言いました、
「美しい幸福の女神よ、われらは、子を護りながら打ちひしがれ、敗れたのです」と。

 そこで(父は)、次に私を富める第二の家の人に与えました。
 (第一の)富商がわたくしを得て(支払った)結納金(身代金)の半分をもって。

 私は、彼の家にも一ヶ月住みましたが、やはり彼もまたわたくしを追い返しました。 
 私は婢女のように勤しみ仕え、罪もなく、戒しめを身にたもっていたのですが。

そしてまた、乞食のために徘徊し、自ら制し(他人を)制する力ある一人の男〔修行者〕に向って、わたくしの父は言いました、
「あなたはわたくしの娘婿となって下さい。ボロ布の衣と乞鉢とを捨てなさい」と。

彼もまた半ヶ月住みましたが、そこで父に告げました、
「わたくしにボロ布の衣と鉢と飲む器とを返してください。もとどおりの乞食の生活がしたいのです」

そこで私の父と母と親族一同すべては彼に言いました、
「ここであなたのためにしないことがあるでしょうか。あなたのためになすべきことは、直ぐに言ってください」と。

このように告げられて、彼は語りました、
「わが心が(自由である状態を)得れば、わたくしはそれだけで充分なのです。わたくしは、イシダーシーと共に同じ家に一緒に住みますまい」と。

 彼は追われて去りました。

わたくしも独りで思いに耽りました、
”私は許しを得て出て行きましょう、死ぬために。或いは、出家しましょう”と。

 その時、尊き大姉ジナダッター尼は、乞食のために遍歴しつつ、父の家に来られました。
 (かの尼さまは、)戒律をたもち、道を学び、徳を具えた方でした。

 かの尼僧を見るや、起って、かの尼さまのための座席を設けました。
 坐した尼僧の両足を礼拝し、食物をささげました。

食物と飲料とかむ食物と、そこに貯えてあったすべてのものを、飽きるまですすめて、わたくしは言いました、
「尼さま、わたくしは出家したいと願うのです」と。

その時、父は、私に告げて言いました、
「娘よ、ここに居て、かの(ブッダ)の教えを行いなさい。
 食物と飲物をもって、道の人や、再生族(バラモン)たちを供養しなさい」

そこで、私は、掌を合わせ、泣いて、父に申しました、
「私は、悪業ばかりをしてきました。私はこれを滅ぼしましょう」

父は、その時、私に告げて言いました、
「さとりを得なさい、最上の真理を得なさい。両足ある尊い方(人間)のうちで、最も尊い方〔仏陀〕が実証された、その安らぎを得なさい」

 私は、母と父と親族一同のすべての者に挨拶して、出家しました。

 出家して七日目にして、私は、三種の明知を得ました。

 私が、自分の(過去)七生を知っているのは、その(明知を得た)結果であります。


 あなたにそれを話しましょう。

 一心にお聞きください。


(その昔、)エーラカカッチャの都において、私は、多くの財宝ある金工でした。
 若気の至りで、その私は、他人の妻と親しくなりました。

 私は、それから死んで、長い間、地獄の中で煮られました。

(罪の)報いが熟し終えて、そこから出ると、牝猿の胎に宿りました。
 私が生まれて七日目に、猿群の長である大猿は、(私を)去勢しました。

 これは、私がかつて、他人の妻を犯した、その業の報いだったのです。

 それから、私は死に、シンダヴァの林で生涯を終えて、片目でびっこの牝山羊の胎に宿りました。
 私は、去勢されて、幼児たちを(背に)乗せて運ぶこと、十二年間でした。
 そして、虫類に悩まされ、病気にかかりましたが、

 これもまた、かつて他人の妻を犯したためだったのです。

 それから、私は死んで、牛商人の所有する牝牛の胎から生まれました。
 私は、樹脂に似た銅色の牡の子牛で、十二ヶ月たって去勢され、私は、再び犂と車を引き、盲目となり、悩み、病気にかかりました。
 これもまた、かつて他人の妻を犯したためなのです。

 それから、私は死んで、街道筋にある婢女の家に生まれ、女性でもなく男性でもありませんでした。

 これもまた、かつて他人の妻を犯したためなのです。

 三十歳にして、私は死に、 (次の生涯では、)車夫の家の娘として生れました。
 この家は、貧しく、財乏しく、債権者にたいして多くの借金をもっていました。
 その後、(借金が)累積し大きく増大すると、商隊の主は、泣き悲しんでいる私を、(私の)家から引きずり出しました。
 やがて、私が十六歳になったとき、その名をギリダーサと呼ばれる、彼の息子は、私が妙齢に達したのを見て、(私を)嫁にしました。
 彼〔夫〕は、他に妻がありましたが、彼女は、身を修め、婦徳を具え、誉れあり、(夫に)愛されていました。
 私は、この夫に憎しみの念を起こしました。

 そうして、婢女のように仕えている私を捨てて、夫が去って行ったことも、

 また、かの(前世の)業の結果なのです。

 (そして、いま)わたくしは、それを終滅しました。
テーリーガーター





  出家修行者の淫行に関して


  学生ティッサ・メッテイヤの質問

尊者ティッサ・メッテイヤがたずねた、
「君よ、淫欲の交わりに耽ける者の破滅を説いて下さい。
 あなたの教えを聞いて、我らも独り離れて住むことを学びましょう」

世尊は言われた、
「メッテイヤよ。淫欲の交わりに耽ける者は教えを失い、邪まな行いをする。
 これは彼のうちにある非聖(法)である。

 かつて(出家当時は)、独り行じていたが、後に、淫欲の交わりに耽ける人は、車が道から外れたようなものである。
 世の人々は彼を「劣凡夫」と呼ぶ。

 かつて彼のもっていた名誉も名声もすべて失われる。
 このことわりをも見たならば、淫欲の交わりを断つことを学べ。

 諸々の(欲の)想いに囚われた彼は、困窮者のように考えこむ。
 このような人は、他人からの叱責の声を聞いて恥じ入ってしまう。

 そうして他人に叱責されたときには、諸々の刃(悪行・悪念)をつくり、また、妄言に沈む。
 これは彼の大きな束縛である。

 独りでいる修行をまもっていたときは、一般に賢者と認められていた人でも、もしも淫欲の交わりに耽ったならば、愚者のように悩まされる。

 聖者はこの世で、前後にこの災いのあることを知り、独りでいる修行を堅くまもれ。
 淫欲の交わりを受用してはならない。

(俗事から)離れて独り居ることを学べ。
 これは諸々の聖者にとって最上(の法)である。
(しかし)そのことだけで最勝と思ってはならない。
 彼は安らぎ〔涅槃〕に近づいているだけである。

 諸々の欲望を全く離れている聖者は、(諸欲を)顧みることなく行じ、激流を(すでに)渡りおわっているので、諸々の欲望に束縛されている人々は彼を羨む」

スッタニパータ

〔この問いは、尊者ティッサ・メッテイヤという一人の名の問いではなく、ティッサさんと、尊者メッテイヤとの、二人による問いとされる経もある。
 尊者メッテイヤは、(慈氏)弥勒菩薩とされる。弥勒菩薩は、ゴータマ仏陀が記別をされた、後世の仏陀である。〕

〔弥勒大士は、ゴータマ仏陀の教えの続いている時代に、仏陀となり、多くの人々を覚りへと導く。

 弥勒仏陀は成道の後、マハーカッサパ尊者の禅窟に赴き、マハーカッサパ尊者の僧伽梨〔そうぎゃり〕(大衣・重衣)を取りて着ける。その時に、そこで、マハーカッサパ尊者は星散される。


 ゴータマ仏陀は、このように仰せられた、
「その時、弥勒、また、種々の香華を取りてカッサパ〔尊者〕を供養する。
 そのゆえは、諸々の仏陀・世尊は、心正法において恭敬のあるがゆえである。
 弥勒もまた、我所に由りて、正法の化を受け、無上正真の道を成ずることを得るからである」

 弥勒所化の弟子は、ゴータマ仏陀の弟子にして、ゴータマ仏陀の遺教の化によりて、有漏を尽くすことを得る。

 その時の、比丘の姓号は、皆、慈氏の弟子という。

 南方上座部においては、’ティッサ’は、和尚の意であり、和尚とは、弟子をとる資格のある者、弟子に具足戒を授ける師、を云う。 H29.10.18〕





  淫戒(出家者における淫戒)

 その時、ヴェーサーリ付近にカランダカという村があり、そこに、スディンナ・カランダカプッサという豪商の息子がいた。
 時に、スディンナは多くの友人と一緒に、ある仕事でヴェーサーリに行った。

 その時、世尊は大勢の人々に囲まれて坐り、教えを説かれていた。

 スディンナは、世尊が大勢の人々に囲まれて坐り、教えを説いているのを見て、”私も教えを聴こう”と思い、
 そこで、スディンナは、かの大衆のところへ行き、一隅に坐った。

説法を聴き終わった彼は、
”世尊の説き示された教えは、私が理解したところでは、家に在りて住している者は、磨き上げられた法螺貝のように完全無欠にして、清浄無垢な修行をすることは、容易ではない。私は髪の毛や鬚を剃りおとし、袈裟を身に着けて、家を出て、出家生活にはいるべきである”と考えた。

 その時、集まっていた大衆は、世尊の説法を聴き、教誡され、歓喜して、坐から立ち上がり、世尊を礼拝し、世尊のまわりを右まわりに回って立ち去った。
 そこで、大衆が立ち去ると、スディンナは直ちに世尊に近づき、世尊を礼拝して、一方に坐った。

一方に坐った彼は、世尊に言った、
「世尊、世尊が説き示された教えは、私が理解しましたところでは、家に在りて住している者は、磨き上げられた法螺貝のように完全無欠にして、清浄無垢な修行をすることは、容易なことではありません。
 世尊よ、私は髪の毛や鬚を剃りおとし、袈裟を身に着けて、家を出て、出家生活にはいりたいと思います。
 世尊、私を出家させてください」

(世尊は言われた、)
「スディンナよ、お前は、家を出て、出家生活にはいることを、父母から許されているのか」

(スディンナは言った、)
「世尊よ、私は、家を出て、出家生活にはいることを、父母から許されていません」

(世尊は言われた、)
「スディンナよ、如来は、父母に許しを得ていない子息を出家させない」

(スディンナは言った、)
「それでは世尊よ、家を出て、出家生活にはいることを、父母から許されました時、そのように致します」

 そこで、スディンナ・カランダカプッタはヴェーサーリでの用事を終えると、カランダカ村の父母のもとに帰ってきた。

そして、スディンナは両親にこのように言った、
「父と母よ、世尊が説き示された教えは、私が理解したところでは、家に在りて住している者は、磨き上げられた法螺貝のように完全無欠にして、清浄無垢な修行をすることは、容易なことではありません。
 私は髪の毛や鬚を剃りおとし、袈裟を身に着けて、家を出て、出家生活にはいりたいと思います。
 私が家を出て、出家生活にはいるのを許してください」と。

スディンナの両親が答えて言った、
「愛するスディンナよ、おまえは私たちの寵愛するたった一人の息子、安楽に育てられて、幸福に成長した。
 スディンナよ、おまえは苦しみの何たるかを知らない。
 私たちは、死によっても、おまえと別れたくはないのだ。まして、生き別れして、おまえが家を出て出家するのを、どうして許すことができようか」

再び、スディンナは、両親にこのように言った、
「父と母よ、世尊が説き示された教えは、私が理解したかぎりでは、家に在りて住している者は、磨き上げられた法螺貝のように完全無欠にして、清浄無垢な修行をすることは、容易なことではありません。
 私は髪の毛や鬚を剃りおとし、袈裟を身に着けて、家を出て、出家生活にはいりたいと思います。
 私が家を出て、出家生活にはいるのを許してください」と。

再び、スディンナの両親は、スディンナに答えて言った、
「愛するスディンナよ、おまえは私たちの寵愛するたった一人の息子、安楽に育てられて、幸福に成長した。
 スディンナよ、おまえは苦しみの何たるかを知らない。
 私たちは、死によっても、おまえと別れたくはないのだ。まして、生き別れして、おまえが家を出て出家するのを、どうして許すことができようか」

三たび、スディンナは、両親にこのように言った、
「父と母よ、世尊が説き示された教えは、私が理解したかぎりでは、家に在りて住している者は、磨き上げられた法螺貝のように完全無欠にして、清浄無垢な修行をすることは、容易なことではありません。
 私は髪の毛や鬚を剃りおとし、袈裟を身に着けて、家を出て、出家生活にはいりたいと思います。
 私が家を出て、出家生活にはいるのを許してください」と。

三たびスディンナの両親は、スディンナに答えて言った、
「愛するスディンナよ、おまえは私たちの寵愛するたった一人の息子、安楽に育てられて、幸福に成長した。
 スディンナよ、おまえは苦しみの何たるかを知らない。
 私たちは、死によっても、おまえと別れたくはないのだ。まして、生き別れして、おまえが家を出て出家するのを、どうして許すことができようか」と言った。

 そこで、スディンナは、
”両親は、私が家を出て、出家生活にはいることを許してくれない”と考えて、

そこで、敷物もない地上に臥せて言った、
「私がここで死ぬか、出家するかのいずれかだ」と、露地の上に臥せた。

 こうして、スディンナは一日の食事をとらず、二日目も食事をとらず、三日目も食事をとらず、四日目も食事をとらず、五日目も食事をとらず、六日目も食事をとらず、七日目も食事をとらなかった。

そこで、スディンナの両親が彼に言った、
「愛するスディンナよ、おまえは私たちの寵愛するたった一人の息子、安楽に育てられて、幸福に成長した。
 スディンナよ、おまえは苦しみの何たるかを知らない。
 私たちは、死によっても、おまえと別れたくはないのだ。まして、生き別れして、おまえが家を出て出家するのを、どうして許すことができようか。
 愛するスディンナよ。さあ、立ち上りなさい。食事をして、飲物を飲んで、遊びなさい。さあ、旨いものを食し、飲み、楽しみ、愛欲を享受しつつ、福徳ある行いをして、楽しみなさい。
 私たちは、おまえが家を出て、出家生活にはいることを許さないからね」と。

 このよう言われて、スディンナは黙ったままでいた。

再び、スディンナの両親は、彼に言った、
「愛するスディンナよ、おまえは私たちの寵愛するたった一人の息子、安楽に育てられて、幸福に成長した。
 スディンナよ、おまえは苦しみの何たるかを知らない。
 私たちは、死によっても、おまえと別れたくはないのだ。まして、生き別れして、おまえが家を出て出家するのを、どうして許すことができようか。
 愛するスディンナよ。さあ、立ち上りなさい。食事をして、飲物を飲んで、遊びなさい。さあ、旨いものを食し、飲み、楽しみ、愛欲を享受しつつ、福徳ある行いをして、楽しみなさい。
 私たちは、おまえが家を出て、出家生活にはいることを許さないからね」と。

 再び、このよう言われても、スディンナは黙ったままでいた。
 
三たび、スディンナの両親は、彼に言った、
「愛するスディンナよ、おまえは私たちの寵愛するたった一人の息子、安楽に育てられて、幸福に成長した。
 スディンナよ、おまえは苦しみの何たるかを知らない。
 私たちは、死によっても、おまえと別れたくはないのだ。まして、生き別れして、おまえが家を出て出家するのを、どうして許すことができようか。
 愛するスディンナよ。さあ、立ち上りなさい。食事をして、飲物を飲んで、遊びなさい。さあ、旨いものを食し、飲み、楽しみ、愛欲を享受しつつ、福徳ある行いをして、楽しみなさい。
 私たちは、おまえが家を出て、出家生活にはいることを許さないからね」と言った。

 三たび、このよう言われても、スディンナは黙ったままでいた。

その時、スディンナの友人がスディンナのところへやって来て、彼にこのように言った、
「友スディンナよ。おまえはおまえのご両親にとっては寵愛するたった一人の息子なのだ。安楽に育てられて、幸福に成長した。
 立てよ、スディンナ、おまえは苦しみの何たるかを知らない。
 おまえのご両親は、死によっても、おまえと別れたくはないのだよ。まして、生き別れして、おまえが家を出て出家するのを、どうして許すことができようか。
 さあ、立ち上がるんだ。食事をして、飲物を飲んで、遊ぶんだ。さあ、旨いものを食し、飲み、楽しみ、愛欲を享受しつつ、福徳ある行いをして、楽しむんだ。
 おまえのご両親は、おまえが家を出て、出家生活にはいることを絶対に許しはしないよ」と。

 このよう言われて、スディンナは黙ったままでいた。

そして、再び、スディンナの友人が、彼にこのように言った、
「友スディンナよ。おまえはおまえのご両親にとっては寵愛するたった一人の息子なのだ。安楽に育てられて、幸福に成長した。
 立てよ、スディンナ、おまえは苦しみの何たるかを知らない。
 おまえのご両親は、死によっても、おまえと別れたくはないのだよ。まして、生き別れして、おまえが家を出て出家するのを、どうして許すことができようか。
 さあ、立ち上がるんだ。食事をして、飲物を飲んで、遊ぶんだ。さあ、旨いものを食し、飲み、楽しみ、愛欲を享受しつつ、福徳ある行いをして、楽しむんだ。
 おまえのご両親は、おまえが家を出て、出家生活にはいることを絶対に許しはしないよ」と。

 再び、このよう言われても、スディンナは黙ったままでいた。

そして、三たび、スディンナの友人が、彼にこのように言った、
「友スディンナよ。おまえはおまえのご両親にとっては寵愛するたった一人の息子なのだ。安楽に育てられて、幸福に成長した。
 立てよ、スディンナ、おまえは苦しみの何たるかを知らない。
 おまえのご両親は、死によっても、おまえと別れたくはないのだよ。まして、生き別れして、おまえが家を出て出家するのを、どうして許すことができようか。
 さあ、立ち上がるんだ。食事をして、飲物を飲んで、遊ぶんだ。さあ、旨いものを食し、飲み、楽しみ、愛欲を享受しつつ、福徳ある行いをして、楽しむんだ。
 おまえのご両親は、おまえが家を出て、出家生活にはいることを絶対に許しはしないよ」と。

 三たび、このよう言われても、スディンナは黙ったままでいた。

そこで、スディンナの友人は、彼の両親のところへ行き、このように言った、
「ご両親、スディンナは、『ここで死ぬか、出家するかのいずれかだ』と、露地の上に臥せています。
 もしスディンナが家を出て、出家生活にはいるのを、あなた方がお許しにならないなら、彼は死ぬでしょう。
 しかし、もしスディンナが出家するのをお許しになれば、出家しているとはいえ、彼の姿を見ることができましょう。
 また、もし彼が出家生活が楽しくなかったときは、ここへ帰ってくるより他に道はなく、その時スディンナは帰って来るでしょう。
 スディンナが家を出て、出家するのを許してやってください」

「ありがとう。スディンナが出家するのを許しましょう」と、スディンナの両親が言ったので、

スディンナの友人は、彼のところへ行って、彼に言った、
「スディンナよ、立ち上がれ。おまえのご両親は、おまえが家を出て、出家生活にはいるのを許された」と。

 そこで、スディンナは、両親から出家することを許されたのを大いに喜び、手で身体をはらい、立ち上がった。

 こうして、スディンナは、数日で体力を回復させて、世尊のもとに赴き、世尊に礼拝してのち、その一方にに坐った。

一方に坐ったスディンナは、世尊に、このように言った、
「世尊よ、私は両親から家を出て、出家生活にはいることを許されました。世尊よ、私を出家させてください」と。

 そうして、スディンナは世尊のもとで出家することを得て、具足戒を受けた。具足戒を受けた後、やがてスディンナは人里はなれた静かな場所に住み、乞食〔こつじき〕を行い、ぼろを着て、食物を乞うのに、順番に家並を訪れ、貧富を選ばず、頭陀行を行ない、とあるヴァッジー族の村の知近くに住した。

 そのころ、ヴァッジー族の地は飢饉で、食物を得ることが困難であった。
 人々は草の葉を食らい、死屍がそこらじゅうに、たくさん重なりあっていて、施しの食物だけで生きることも容易ではなかった。

そこで、長老スディンナは考えた、
「今、ヴァッジー族の地は飢饉で、食物を得ることが困難であった。
 人々は草の葉を食らい、死屍がそこらじゅうに、たくさん重なりあっていて、施しの食物だけで生きることも容易ではない。
 しかし、ヴェーサーリに、自分の親戚があり、裕福な大金持ちで、食物多く、財産多く、金銀も豊かで、物資も豊富で、穀物も倉庫に満ちている。私は今、その親戚を頼って、しばらく留ることにしよう。親戚は私に依りて、僧に施しをし、功徳を積むことができよう。そして、諸比丘は利を得て、私も乞食を苦となさないだろう」と。

 そこで、長老スディンナは、それまで住んでいた小屋をたたんで、衣を着け鉢を手にして、ヴェーサーリに向かって出発し、各地に順次に遊行してヴェーサーリに到着した。
そこにおいて、彼はヴェーサーリのマハー・ヴァナにある重閣講堂にしばらく留まった。

長老スディンナの親戚は、「スディンナがヴェーサーリに来ている」ということを聞いた。

 そこで、彼らは長老スディンナのために乳飯六十食を供養した。
 長老スディンナは、この乳飯六十食を諸比丘に分配したのち、朝早く衣を着け鉢を手にして、カランダカ村に乞食に入り、カランダカ村の家を、一軒一軒、次第に乞食して歩き、自分の父の家にやって来た。

 ちょうど、その時、長老スディンナの家の下女が、前夜の残飯を捨てようとしていた。

長老スディンナは、その下女にこのように言った、
「むすめよ、もしそれを捨てるのであれば、それを私の鉢の中にうつしてもらえるだろうか」と。

 そこで、その下女が、前夜の残飯を長老スディンナの鉢の中にうつしているとき、手と足と声の特徴によって、この比丘がスディンナであることを知った。

そこで、この下女は、長老スディンナの母親のところへ行き、彼の母にこのように言った、
「奥様、スディンナ坊ちゃまがいらっしゃいましたのを、ご存知でございますか」

(長老スディンナの母は言った、)
「もし、おまえの言うことが本当なら、おまえを下女の身分から解放してあげよう」と。

 その時、長老スディンナは、ある家の塀の根元に腰を下ろして、かの前夜の残飯を食べていた。
 長老スディンナの父も、仕事から帰ってくる途中で、彼が塀の根元に腰を下ろして、かの前夜の残飯を食べているのを見た。

彼の姿を見つけると、長老スディンナの父は、長老スディンナに近づいてこのように言った、
「愛するスディンナよ、おまえは前夜の残飯を食べているのではないか。どうして、スディンナよ、おまえは自分の家へ行かないんだ」と。

すると、彼は、
「長者よ、私はもうあなたの家へ行き、この前夜の残飯をいただきました」と答えた。

そこで、長老スディンナの父は、彼の手をとり、彼にこのように言った、
「愛するスディンナよ、さあ、来なさい。我が家へ行こう」と。

 こうして、長老スディンナは、自分の父の家に行き、設けられた席についた。

すると、彼の父が彼に食物を出して言った、
「愛するスディンナよ、さあ、食べなさい」

(長老スディンナは言った、)
「長者よ、結構です。私はもう食事を終えました」

「愛するスディンナよ、それでは、明日の食事を受けておくれ」

 長老スディンナは黙ったままで、その申し出を受けることを承諾した。こうして、長老スディンナは坐より立って去った。

 そこで、長老スディンナの母は、その夜の間に、緑色の牛糞で大地を塗らせて、一は金貨と、一は黄金の山の、二山を作らせた。積み重なった山は大きく、こちら側に立っている人は、向こう側に立っている人を見ることができず、向こう側に立っている人は、こちら側に立っている人を見ることができないほどであった。
 この金貨と黄金の山を敷物で覆い、その中間に座を設け、周りに垂幕を張り巡らして飾った。

そして、長老スディンナの元の妻を呼んで言った、
「嫁女よ、そなたは、息子スディンナのお気に入りの衣装で着飾りなさい」

「母よ、かしこましました」と、長老スディンナの元の妻は、長老スディンナの母の言葉に同意した。

 さて、長老スディンナは、次の日の朝早く、下衣を整え、上衣を着け鉢を手にして、自分の父親の家に赴き、設けられた席についた。
すると、彼の父が彼のところへ出て来て、(金貨と、黄金の積み重ねの)二山の覆いをとり除かせた。

そして、長老スディンナにこのように言った、
「愛するスディンナよ、これはそなたの母方から来た持参金で、他に父の財産もあれば、祖父の財産もある。
 愛するスディンナよ、そなたは還俗して財産を受けなさい、また、それで功徳のあるいろいろなことができるだろう。
 さあ、スディンナよ、そなたは還俗して財産を受けなさい、それで功徳のあることを行いなさい」

(長老スディンナは言った、)
「父よ、私は強いて努めているのでもなければ、困難をたえているのでもありません。私は楽しんで修行をしているのです」

二度、三度と、長老スディンナの父が彼に言った、
「愛するスディンナよ、これはそなたの母方から来た持参金で、他に父の財産もあれば、祖父の財産もある。
 愛するスディンナよ、そなたは還俗して財産を受けなさい、また、それで功徳のあるいろいろなことができるだろう。
 さあ、スディンナよ、そなたは還俗して財産を受けなさい、それで功徳のあることを行いなさい」

(長老スディンナは言った、)
「長者よ、もしお怒りにならないのならば、申し上げたいことがあります」

「スディンナよ。さあ、言いなさい」

(長老スディンナは言った、)
「それでは、長者よ、大きな麻布の袋を作らせて、この金貨・黄金をそれに詰め、車に載せて運ばせ、ガンジス河の真ん中に投げ込ませなさい。
 それは何故か、長者よ、そうすれば、それを原因としての、あなたの恐怖、あるいは、驚き、あるいは、心労もなくなるでしょう」

この言葉を聴いた長老スディンナの父は、喜ばなかった、
”息子スディンナは、何故このようなことを言うのだろうか”と。

そこで、長老スディンナの父は、長老スディンナの元の妻に告げた、
「嫁女よ、そなたは寵愛された妻だったのだ。息子のスディンナも、そなたであれば言葉を交すであろう」

そこで、長老スディンナの元の妻は、長老スディンナの両足にすがり、彼にこのように言った、
「あなた、あなたさまが得ようと修行をしている、かの天女とは一体どのような者なのですか」

「むすめよ、私は天女のために修行をしているのではない」

すると、長老スディンナの元の妻は、
「夫は、私を”むすめ”という言葉で呼んだ」と、悶え苦しんで、その場に気を失って倒れた。

その時、長老スディンナが、父にこのように言った、
「長者よ、もし食物を供養するはずでしたのならば、供養してください。私をこれ以上悩ませないでください」

「愛するスディンナよ、さあ、食べておくれ」

 そこで、長老スディンナの両親は、彼に味の良い食物を手ずから給仕し、充分に食べさせて満足させた。

その時、長老スディンナの母は、食事を終えて、鉢から両手を放した長老スディンナにこのように言った、
「愛するスディンナよ、この家は財産が豊かで、食多く、金銀も豊かであれば、金銀・財貨・資具あり。
 スディンナよ、そなたは還俗して財産を受け、それで功徳のあるいろいろなことをすることができるんだよ。
 だから、スディンナよ、そなたは還俗して財産を受け、そして、功徳のあるいろいろなことを行いなさい」

「母よ、私は強いて努めているのでもなければ、困難をたえているのでもありません。私は楽しんで修行をしているのです」

 そして、二度、三度と、長老スディンナの母は長老スディンナにこのように言った、
「愛するスディンナよ、この家は財産が豊かで、食多く、金銀も豊かであれば、金銀・財貨・資具あり。
 スディンナよ、そなたは還俗して財産を受け、それで功徳のあるいろいろなことをすることができるんだよ。

 それでは、スディンナよ、後継ぎを与えておくれ。
 私たちに後継ぎの子が無ければ、リッチャヴィ王は、私たちの財産を没収するのだから、そうならないように」

(長老スディンナは言った、)
「母よ、そのようなことであれば、私も何とかしてあげることができるでしょう」

(長老スディンナの母は言った、)
「スディンナよ、そなたは今、どこに留まっているのですか」

「母よ、マハー・ヴァナにしばらく留まっています」

 このようにして、長老スディンナは座より立って去った。

そこで、長老スディンナの母は、長老スディンナの元の妻に告げた、
「嫁女よ、月華が始まり、おえたならば、私に知らせておくれ」

「母よ、承知しました」と、長老スディンナの元の妻は、長老スディンナの母の言葉に同意した。

 その後間もなく、長老スディンナの元の妻に月華が始まりおえた。

 そこで、彼女はその旨を姑に話した。

そこで、長老スディンナの母は、長老スディンナの元の妻に告げた、
「嫁女よ、息子スディンナのお気に入りの衣装で着飾りなさい」

「母よ、承知いたしました」と同意した。

 そこで、長老スディンナの母は、長老スディンナの元の妻を連れて、マハー・ヴァナの長老スディンナのところへ言った。

そして、長老スディンナにこのように言った、
「愛するスディンナよ、この家は財産が豊かで、食多く、金銀も豊かであれば、金銀・財貨・資具あり。
 スディンナよ、そなたは還俗して財産を受け、それで功徳のあるいろいろなことをすることができるんだよ。

 それでは、スディンナよ、後継ぎを与えておくれ。
 私たちに後継ぎの子が無ければ、リッチャヴィ王は、私たちの財産を没収するのだから、そうならないように」

(長老スディンナは言った、)
「母よ、そのようなことであれば、私も何とかしてあげることができるでしょう」と。

 そして、長老スディンナは、元の妻の腕をとって、マハー・ヴァナの中に入り、淫戒に関して、未だ制戒せられていないが故に、その罪悪業であることを知らずに、元の妻と三度不浄法を行じた。

 そうして、彼女は彼によって胎を受けた。


その時、大地の神・地居天は叫び声をあげた、
「実に、汚れなく、罪悪業のない僧伽に、スディンナによりて、汚濁が生じ、罪悪が起こった」

 地居天の声を聞いて、四天王の天衆も叫び声をあげた。

 忉利天の天衆も、夜摩天の天衆も、兜卒天の天衆も、楽変化天の天衆も、他化自在天の天衆も、梵天界の天衆も、それぞれに、叫び声をあげた。

「実に、汚れなく、罪悪業のない僧伽に、スディンナによりて、汚濁が生じ、罪悪が起こった」と。

 このように、その声はたちまちの内に梵天界に到るまで達した。


 時に、長老スディンナの元の妻は、月満ちて、男児を産んだ。
 そこで、長老スディンナの友人は、この男児にビージャカという〔種子という意味の〕名をつけ、
 長老スディンナの元の妻に「ビージャカの母」という名をつけ、
 長老スディンナを「ビージャカの父」とつけた。

 ビージャカと、その母親は、後に家を出て、出家生活にはいり、阿羅伽の位を得た。

その時、長老スディンナは良心の呵責を感じ、後悔した、
「実に、あのようなことをして、私にとっては、不利益なことで、利益になることではなかった。
 私にとって、悪益なことで、善益になることではなかった。
 私は、このように善く説かれた法・律に随って、出家しておきながら、一生のあいだ、完全無欠で清浄無垢な修行を、成し遂げることができなかった」と。

 こうして彼は、良心の呵責と後悔にさいなまれて、次第に痩せ衰えて無気力となり、顔色が悪くなり、血管が四肢に浮き出たばかりでなく、ふさぎこみ、ぼんやりして、苦しみ悩み、後悔していた。

その時、長老スディンナの友人の諸比丘が、彼にこのように言った、
「友、スディンナよ、君は以前は元気はつらつとして、感官は鋭く、顔色も皮膚の色も良かった。
 ところが、今は、痩せ衰えて無気力となり、顔色が悪くなり、血管が四肢に浮き出たばかりでなく、ふさぎこみ、ぼんやりして、苦しみ悩み、後悔している。
 スディンナよ、そなたは楽しんで修行をしていないのですか」

(長老スディンナは言った、)
「諸君、私は修行をするのを楽しんでいないのではない。
 私は悪行をしてしまったのだ。
 私は元の妻と不浄法を行じたのだ。
 そのために、私は、”実に、あのようなことをして、私にとっては、不利益なことで、利益になることではなかった。
 私にとって、悪益なことで、善益になることではなかった。
 私は、このように善く説かれた法・律に随って、出家しておきながら、一生のあいだ、完全無欠で清浄無垢な修行を、成し遂げることができなかった”と、良心の呵責と後悔にさいなまれているのだ」

「友、スディンナよ。実に疑念があり、後悔もあるだろう。
 そなたは、このように善く説かれた法・律に随って、出家しておきながら、一生のあいだ、完全無欠で清浄無垢な修行を、成し遂げなかった。
 まこと、友よ、世尊は種々の方便を用いて、離欲のために教えを説き給い、貪欲を受けるために教えを説かれたのではない。
 繋縛から離れるために教えを説き給い、世の繋縛のためではない。
 無執著のために教えを説き給い、執著のためではない。

 ところが友よ、そなたは、世尊が離欲のために説かれた教えを貪欲を受けるためと為したのだ。
 繋縛から離れるために説き示された教えを、世の繋縛のためにと為し、無執著のために説かれた教えを、執著のために説かれたと為したのだ。

 まこと、友よ、世尊は種々の方便を用いて、欲を離れるために教えを説き給い、うぬぼれを破すのために、渇愛の離脱するために、愛欲の除去のために、愛欲の滅尽のために、離欲のために、滅尽のために、全き安楽の境地(涅槃)のために、教えを説かれたのではないのか。

 まこと、友よ、世尊は種々の方便を用いて、欲の断滅を説き、欲想の知を説き、欲欲の調伏を説き、欲覚の滅を説き、欲熱の静止を説かえれたのではないのか。

 友よ、これは、未信の者に信を起こさせ、信のある者の信をさらに増大させるような行いではない。
 友よ、これは、むしろ未信の者に不信を起こさせ、信のある者を、あらぬところに向けさせるものだ」と。

 諸比丘は、長老スディンナを種々の方便を用いて叱責し、そして、世尊にこのことを報告した。


そこで、世尊はこの因縁によりて、比丘僧を招集して、長老スディンナにこう問うて言われた、
「スディンナよ、そなたが元の妻と不浄法を行じた、というのは真実か」

「世尊よ、真実であります」


仏陀、世尊は、長老スディンナを叱責し給へり、

「愚か者よ。これは適法に非ず、随順行に非ず、威儀に非ず、沙門行に非ず、浄行に非ず、為してはならない行いである。

 愚か者よ。何故、このように善く説かれた法・律に随って、出家しておきながら、一生のあいだ、完全無欠で清浄無垢な修行を、成し遂げなかったのだ。

 愚か者よ。私は種々の方便を用いて、離欲のために教えを説き、貪欲を受けるために教えを説いたのではない。
 繋縛から離れるために教えを説き、世の繋縛のためではない。
 無執著のために教えを説き、執著のためではない。

 愚か者よ。そなたは、私が離欲のために説き示した教えを、貪欲を受けるためと為し、繋縛から離れるために説き示した教えを、世の繋縛のためにと為し、無執著のために説き示した教えを、執著のために説くと為したのだ。

 愚か者よ。私は種々の方便を用いて、欲を離れるために教えを説き、うぬぼれを破し、渇愛の離脱のため、愛欲の除去のため、愛欲の滅尽のため、離欲のため、滅尽のため、全き安楽の境地(涅槃)のために、教えを説いたではないか。

 愚か者よ。私は種々の方便を用いて、欲の断滅を説き、欲想の知を説き、欲欲の調伏を説き、欲覚の滅を説き、欲熱の静止を説いたではないか。


 愚か者よ。むしろ、怖るべき毒牙の口の中に男根を入れようとも、女性の陰部の中に男根を入れてはならない。

 愚か者よ。むしろ、怖るべき毒蛇の口の中に男根を入れようとも、女性の陰部の中に男根を入れてはならない。

 愚か者よ。むしろ、燃え盛る火坑の中に男根を入れようとも、女性の陰部の中に男根を入れてはならない。


 愚か者よ。何故かと言えば、(毒牙の口の中に男根入れようとも、)これが原因によりては、死、あるいは、死にも等しき苦しみを受けるだろう。しかし、そのために、身体を損壊して死んだとしても、悪処・悪趣・悪生・地獄に生まれることはない。

 愚か者よ。しかしながら、この(不浄法という)原因によりては、身体を損壊して死んだ後には、悪処・悪趣・悪生・地獄に生まれるのだ。


 愚か者よ。ここにそなたは、罪悪業・卑業・悪行・汚行・不浄法・隠処法・二人にて行う邪行、を行じたのだ。

 愚か者よ。そなたは、多くの不善法の最初の犯行者・先駆者だ。

 愚か者よ。これは、未信の者に信を起こさせ、信のある者の信をさらに増大させるような行いではない。これは、未信の者に不信を起こさせ、信のある者をあらぬところに向けさせるもなのだ」と。


 こうして、世尊は長老スディンナを叱責されて、扶養し難く、給養し難く、多欲にして足るを知らず、衆中に交わりて、非放逸を説き給い、扶養し易く、給養し易く、少欲知足にして清浄、頭陀を好み、端正にして衆中に交わらず、勇猛精進であることを讃嘆されて、諸比丘のために、適切随順なる法話をされた。


そして、世尊は、諸比丘に言われた、
「諸々の比丘よ、それでは、私は、十の利益のために、諸比丘のために学処を制定する〔制戒十利〕。

(これは、)
 僧伽の善のために。
 僧伽の安楽のために。
 
 悪人を調伏のために。〔無恥無慚の人々の抑止・助けることの難しい人を抑えるため・厚かましい粗野な人を抑えるために。〕
 善良比丘の安楽住のために。
 
 現世の漏を断ずるために。〔現法の煩悩(衰退・苦・苦悩)からの防護のために。〕
 末世の漏を滅するために。〔未来の諸漏(衰退・苦・苦悩)の防除のために。〕
 
 未信の人々の信を起こさせるために。
 すでに信のある人の信を増大するために。

 正法が永く在り続けるために。
 律の愛重のために。〔規律の基準として用いる規定を制定し、律のますますの安定の支援のために。〕
 
 諸比丘、汝ら、まさにこのようにこの学処を誦しなさい。

『いずれの比丘と言えども、女性と交わる不浄法を行じたならば、パーラージカ(波羅夷)に処せられ、共に住してはならない者として、教団から追放される』」と。

 このように世尊は、諸比丘に教誡を制定した。


スッタ・ヴィバンガ 律蔵



〔仏陀の、強い叱責は、十の利益のためである。

 もし、何らかの原因によりて、その者が身体を損壊して死んだ後に、悪処・悪趣・悪生・地獄に生まれることがなく、正道に随って、善処・善趣・善性・天上に生まれるのであれば、仏陀が叱責されることはないだろう。

 しかしながら、この(不浄法という)原因によりては、その者自身が、苦を受けることになる。

 この(不浄法という)原因によりては、その不浄法を行じた者自身が、身体を損壊して死んだ後には、悪処・悪趣・悪生・地獄に生まれるが故の、まことに強い叱責である。

 それは、
 (これから後の、)僧伽の善のために。(これから後の、)僧伽の安楽のために。

 (これから後の、)悪人を調伏のために。(これから後の、)善良比丘の安楽住のために。

 (これから後の、)現世の漏を断ずるために。(これから後の、)末世の漏を滅のために。

 (これから後の、)未信の人々の信を起こさせるために。(これから後の、)すでに信のある人の信を増大するために。

 (これから後の、)正法が永く在り続けるために。(これから後の、)律を愛重のために。


 このようにして、仏陀は、十の利益のために、諸比丘のために学処〔制戒十利〕を制定なされた。〕





  淫事に関して、在家者の務めについての教え




仏陀曰く、

「淫事たる不浄の行いを離れよ」


「諸識者は淫行を回避せよ。

 燃えさかる炭火を回避するように。

 もし不淫を修することができなければ、(少なくとも)他人の妻を犯してはならない」

ダンミカ経 スッタニパータ





仏陀曰く、

「女に溺れ、酒にひたり、賭博に耽けり、得るにしたがって、得たものをそのたび毎に失う人がいる、これは破滅への門である」

「(妻ある者が、)自らの妻に満足せず、遊女に交わり、他人の妻に交わる、これは破滅への門である」

「青春を過ぎた男が、ティンバル果のように盛り上がった乳房のある若い女を誘き入れて、彼女についての嫉妬から夜も眠られない、これは破滅への門である」

「酒肉に耽り、財を浪費する女、またはこのような男に、実権を託すならば、これは破滅への門である」

破滅経 スッタニパータ



「淫欲の交わりを断ち、いかなるうら若き女人にも心をとどめず、驕りまたは怠りを離れ、束縛から解脱している聖者、
 彼を諸々の賢者は(真の)聖者であると知る。

 世間をよく理解して、最高の真理を見、激流を超え海を渡ったこのような人、束縛を破って、依存することなく、煩悩の汚れのない人、諸々の賢者は、彼を聖者であると知る。

 両者は住所も隔たっていて、等しくない。
 在家者は妻を養うが、善く誓戒を守る者〔出家者〕は、何ものをも我がものと見なす執著がない。
 在家者は、他のものの生命を害って、節制することがないが、聖者は自制していて、常に生命ある者を守る。

 譬えば、青いクビの孔雀が、空を飛ぶときに、どうしても白鳥の速さにおよばないように、
 在家者は、世に遠ざかって林の中で禅定する聖者・修行者におよばない」

聖者経 スッタニパータ







 邪淫を厭い離れることについて  未





















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